豊かな選択肢/いい家づくり100選 -3- コマーシャル幻想を捨てよう

◎「基礎知識」編

<家づくりを楽しもう>

コマーシャル幻想を捨てよう
 
60年代後期に当たる僕らの小学生の頃は、サッカーでも野球でもなく、ソフトボールが少年スポーツの王道

を走っていた。利き腕とグローブを鳩尾辺りで重ね合わせ、それから利き腕を大きく後ろに回転させたアンダ

ースローから投げ出されたリンゴ大のボールを青空高く打ち返す球技に、僕らは炎天下でも没頭した。今でい

う熱中症で倒れそうになりながらも、先輩中学生の激に背中を押され、薄茶色の砂埃舞うグラウンドで僕らは

戦っていた。そんなところからも、男子は闘争本能を鍛えられる運命にあるのだろう。とことん「社会的な生き

物」になる定めなのだ、男ってヤツは。


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ある日、僕は、もう本当に倒れそうだった。貧血なのか、熱中症なのか、今となってはわかるはずもないが、グ

ラウンドの隅の大きなクスノキの木陰で、僕はだらしなく胡座をかいてへこたれていた。そんな僕の背後から、

冷気漂うとても特殊な雰囲気のあるドリンクが差し出された。そう、ドリンクだ。ただの飲み物ではない。それ

が、僕とコカ・コーラの運命の出合いだった。
 

コーラを飲んだ僕は、「すかっと爽やか」になって元気を取り戻し、直後の打席でホームランを打った。恥ずか

し話だが、僕はコカ・コーラを栄養ドリンクか何かと思い込んでいた節がある。たぶん、「いいか、これは凄いド

リンクなんだぜえ、一口飲んだだけで体がビンビンしてくるんだぜえ」とか、スギちゃんのような口調で先輩中

学生に吹き込まれたのだ、とボンヤリ記憶している。コーラを一口飲んだ僕は、コマーシャルのキャッチフレー

ズのまんまに、萎えていた気持ちが「すかっと爽やか」になっていくのがわかった。


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その当時のコーラのテレビコマーシャルをインターネットで検索したら観ることができる。最初のコマーシャル

は「山にハイキングに行ってコーラを飲む編」で、次は「雪ダルマ編」、「輪投げ編」とつづき、ピンキーとキラー

ズが歌って踊る「自動販売機編」へとつづいていく。いずれもキャッチコピーは「スカッとさわやかコカ・コー

ラ」。水滴のついた流線形のボディから茶色のコーラがグビグビッとグラスに注がれるシズル感あふれる映像

が、観ている者の咽を乾かす。


小学生の僕もどこかでこのコマーシャルを観ていて、ある意味洗脳されていたのだろうか。どうも、思い出せ

ない。あの頃はそうそう頻繁にテレビを観ていたわけではないはずだし、先輩の「栄養ドリンク話」にも先導され

ていたこともあるのだろうが、コーラを飲んだ直後に「スカッとさわやか」になるとは! なんと恐るべしテレビコ

マーシャル!
 

こんな風にテレビコマーシャルには知らぬ間にジワジワと聴衆を先導する力がある。それは時には物事の本

質をカモフラージュする役割さえ担いながら、時代を変えていく。


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テレビコマーシャルは「豊かな選択肢」を提示することはない。そこにあるのは、いかに自社製品が優れてい

るのかという企業情報だ。例えユニクロのカラージーンズがいかに数多くのカラーパターンを揃えているとして

も、いずれもユニクロという企業の商品であることに変わりはない。
 

住宅のテレビコマーシャルは大物タレントを起用してイメージアップを狙ったものが多いが、オモシロ可笑しい

世界を醸し出す中でサブリミナル的に「外張り断熱」とか「免震」というキーワードを大量の電波を使って視聴

者の深層心理に植え付けていく。そこでは決して「住宅というものの本質」が語られることはない。そこに在る

のは、ユーザーを導いていくコマーシャルの中の世界観であって、やはり「豊かな選択肢」は存在しない。「住

宅にはいろんな造り方があるんですよ」なんてとても素朴な思想は、合理化とコストダウンによって利益を追

求するハウスメーカーの商品コンセプトとは水と油の関係だ。


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テレビコマーシャルの中に潜んだキーワードが、現代人の心にいろんな常識を焼きつける。家はきちんと分譲

された団地で買うモノ。なるべく手入れの要らない合理的な建物がいいらしい。原発で発電した深夜電力で夜

の間に蓄熱した暖房機が最も省エネ! 太陽光発電は4キロワット相当でないと経済効率が悪い!・・・。
 

こんな常識が、まことしやかに人から人に囁かれる。コマーシャル幻想が現代人の心を黒い鏡に変える。幻

想に生きる人は、自分の心の黒い鏡に映った理想の世界へ向かって歩き出す。そこに「豊かな選択肢」はな

い。


自分が生きたい暮らし方を実現するには、どうすればいいのだろう。住宅も化粧品も食品も、テレビコマーシャ

ルの世界にしか存在しないのだろうか? もちろん、そんなことはない。何を選ぼうと、自由なのだ。どこで暮

らそうか、どんな風に楽しもうか、その選択はもっと豊かであるべきだし、実際に目を自由に開放すれば、そこ

には豊かさが存在する。曇った黒い鏡(植え付けられた常識)をクリーンにして、自分なりに考え始めること。


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僕が提案する「豊かな選択肢」は、その思考の先で、自由な人々を待っている。

by yawaraka-house | 2012-06-06 14:28 | 豊かな選択肢/いい家づくり100選