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はじめに


 「いい家」についての著作物は、数多く出版されている。すべてを読んだ
わけではないので断言はできないが、その手の多くは、自分たちが信念を持
って提案できる住宅づくりのシステムなり機能なりがいかに優秀であるかを
謳った内容のはずである。かく言う私も2003年に「スローハウジングで思
い通りの家を建てる」という本を書き、いろいろな家づくりの方法があるが、
建築家との家づくりこそが、デザインの自由度や完成度からしても理想的で
あり、その建築家を選ぶにはこんな実践的なポイントがあります! と熱く
語った。

 それから5年が経過した今、新たな「家づくりのためのガイドブック」を
書く必要性を感じている。
 というのも、日本の家づくりシステムとして法が定めている建築基準法が
さらなる混沌の中に突入しており、日本の家づくりの根本を見ることさえし
ないその法律の元で、本当にいい家を建てたいと願ってやまない人々が迷走
をする明日が、すぐそこに待ち構えていると予測できるのだ。

 昭和25年に建築士法が制定されるまでは、棟梁が描いた絵図面を元にこの
国の住宅は建築されていた。それまでは棟梁と建主が打合せを行った結果、
建主の希望にそくした間取りを持った住宅が造られていた。どっしりと重い
瓦屋根や茅葺き屋根を乗せた、切妻や入母屋といった昔ながらの意匠をした
住宅が建てられていたのだ。がっちりと太い梁や柱を使い伝統工法の仕口や
継手で組まれた民家は、今でも古民家として再生されるくらいしっかりと造
られていた。
 ただその後にやってくる高度経済成長の副産物として登場した欠陥住宅が
世間を騒がせる辺りから、家づくりの事情が変わってきた。
 法的な規制がかかるようになってきたのである。しかも夢の欠片さえもな
い規制、が。

 私はこの段階での行政の想像力のなさが、その後の日本の家づくり迷走を
引き起こした元凶だと思っている。その段階で、日本の住宅とはどうあるべ
きかをもっと真剣に想像し、その道の専門家(先人)たちの知恵に習うとい
う謙虚さがあれば、シックハウス問題も耐震偽装問題も起らなかったに違い
ない。極論すれば、そう考えている。

 この国の法律はおそらくは性悪説に基づいているのだと思う。または、国
の文化を守り育むという志を持たない小市民が寄せ集めの知識を使って創造
しているのだろう。私は、現場で大工に的確な指示を出し建築家からも図面
作成に際して相談をされる棟梁を知っているが、日本の軸組工法のディテー
ルなどを彼からヒアリングし、それを元に建てた民家を使って耐震性能の実
物大実験をしたい衝動に駆られることがある。机の上で建築基準法を書いて
いる人々はきっとそんな衝動に駆られることはないのだろう。彼らにとって
は、その工務店の棟梁は信用に足らないだろうし、そんな実験をしたところ
で、それがなにを産み出すのか、彼らは想像できないのだ。

 現行の建築基準法は、欠陥住宅を出さないための“締め付けのルール”である。
平成21年10月1日から施行される住宅瑕疵担保履行法も、その延長の上で登
場してきた。この法律は新築住宅の請負人や売主に資力確保措置を義務づけ
るものである。耐震偽装問題で悪名を売ったマンションメーカーがあったが、
あのような企業が再び登場したとして、この義務に従ってその企業が保険に
加入または保証金を供託しておくことで、いざという時でも犠牲者を出さな
いようにしようというわけだ。
 供託金の額がすごい! 供給戸数1戸〜10戸の場合は200万円×戸数+1
800万円。年間50戸以上を建設する地場中堅工務店ならば過去10年間に瑕疵
担保責任を負う戸数から計算しなければならず、従って年間60戸供給すると
して60万円×600戸(年間60戸×10年間)+4000万円=40000万円の供託金を
法務局などに預けておかなければならない。これは事実上不可能な数字である。
 そこでもう一つの資力確保措置(だいたいこの呼び方からして上から目線で
ある)が、保険への加入となるのだが、ここら辺りから、「待てよ、もしかし
て・・・」と想像できた人は勘が鋭い! 
 そうなのである。来年10月以降に建つであろう住宅はすべて、住宅瑕疵担保
責任保険に加入しておかなければならない、ということなのだ。そこで問題。
もしその保険を契約をする保険法人(国の指定)が保険を下ろさなかったらど
うなるのか? その家は果たして建つのだろうか? いやいや、建つとすれば
どんな家は建ってどんな家は建たなくて、いやそもそも保険を通過して建つの
だろうか? えっ、もしかしたら建築家の思いっきり大胆な設計をした住宅は
保険が下りない? じゃー、どうすればいいの〜! という事態が想像できる
のである。

 面白いことに、この新しい締め付けルールのことを建築家に話したら、ほと
んどの人がこの法律の名前さえ知らず、中には呑気にこう答える建築家もいた。
「そんな瑕疵保証なんて、今までみたいにその保証を使わなかったらいいんだ
ろ?」
 このルールに選択の余地なし。こうやって、国はますますマイナス思考で穴
埋め的ルールづくりに走り、住宅性能保証などの数値化に強いハウスメーカー
や大手地場ビルダーだけが着々とその制度の傘の下での戦闘準備をはじめ、腕
はあっても資力のない弱小ビルダーや情報に疎い建築家たちは刀を抜く前に時
代の闇討ち(と言っても一応の告示はしてあるのだが・・)に合うのだろう。

 今はそんな時代である。
 この5年の間に、家づくりを巡る状況は熾烈な変化を遂げたのである。
 だからこそ、この時代を生き抜いていく建築家と工務店へ向けて、そしてそ
の先の家づくりで満足度の高い住宅に住むことになってほしい未来の建主に向
けて、私はメッセージを送りたい。
 今こそ、この住宅業界全体を見渡した上での見識と想像力、そして連携が求
められているのだ、と。
 やわらかに専門連携する家づくりの時代が、これからはじまる。

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by yawaraka-house | 2008-05-13 10:34