豊かな選択肢
家づくりは一生に一度のことです、とよく言う。お金がかかることだから、確かに何度でも経験はできない。そ
の経験を何度もする人のことを、昔から家道楽と呼ぶくらいだ。
僕はこれまでに400棟ほどの住宅を建ててきた。ほとんどが建築家がデザインした個人住宅だ。もちろん、
僕の自宅ではない。が、そこにはいつも自宅を建てるようなワクワクする思いが立ちあがっていた。それぞれ
の建主の事情を追体験しながら、ニュートラルな思いで各々の家づくりに立ちあってきた。その意味で僕は何
百回と家を建ててきた家道楽なのだと思う。
そこにはいつも、希望と課題があった。これを優先すれば、それが実現できない。それを適えるためには、こ
れを犠牲にしなければならない。どんなに予算のある家づくりでも、やはり必ず、何かを選択する場面が出て
くるのだ。だから最近はいつも、最初の最初に、建主に対して、やがて訪れるその選択の瞬間について、事前
通知をするようにしている。
しかし、この家づくりコーディネートという仕事をするようになった最初の頃は、その提示が薄かった。なにしろ
その頃の僕は建築家パーウェクトと思ってていて、彼らの多くが提案する住宅のプランの第一回目のプレゼ
ンテーションの見積もりが、平気で目標予算と1000万円以上もかけ離れていることが多々あることなんてこ
とは知らなかった。
建築家はもとより、工務店も、僕にそんな傾向があることについて事前通知してくれなかった。要は学習が必
要だったわけだ。それは、なにも予算だけに限った話ではなかった。僕はやがて、構造や温熱、間取りや図
面、外壁や床、外と内の関係、土地の可能性等など、あらゆる事柄に関しての学習の必要性を、痛感するこ
とになっていったのだ。
家は、世の中で最も総合的な物体である。皿やボールペンやメガネのように単一かそれに近いシンプルな目
的を持ったプロダクトではない。車ほどにコンパクトでもない。車でさえ外観や室内空間があり燃費を司るエン
ジンがあるが、家はその何倍もの要素を含んでいる。だからこそ、自分の好きな家を一発で想像しなさいと言
われても、それを容易にできる人は少ない。あまりに総合的過ぎて、一発で頭の中に想像するほど一面的で
はないのだ。
そこに来て、自分ちを建てる幸運に恵まれるのは「一生に一度のこと」なのだから、いざ家づくりがスタートとい
う段階になってはじめて、大概の人は慌てて建築雑誌を読みかじり、断片的な知識で武装しようとする。ところ
が、残念なことに、家づくりは何度も経験をしないと実感を伴って「相対的な本当のことが解らない」と来てい
る。
そこで、これからこのコラムの中で、僕が今までに得てきたいい家づくりのコツを100選しー「豊かな選択肢
100選」ーとしてご案内したいと思う。それは、読者の家づくりを、一度きりの人生において必ずや
有意義な道へとつなげていく「豊かな選択肢」となるものでなければならない。
僕の父は教育者だった。僕は見事にその血を受け継いでいるので、その言葉はどこかしら説教臭いと妻から
もよく言われる。上記の文章にしたところで、やや真面目過ぎるきらいがある。まあ最近では自分でもそのこと
を意識しているので(日々成長!)、読者が退屈しないように多少のユーモアを交えながら語り伝えたいと思
う。
偉そうなヤツやなあと思われた方にはご勘弁願いたい。そんなこと知っますーという情報もあるはずだ。確か
に技術の進歩は凄まじい!例えば僕が知っている温熱の造り方やその基本となる断熱材の種類や性能につ
いても、もっと最新の情報を得ている読者が居ても不思議ではない。もし読者がそんな情報を知っていたら、
ぜひメールででも僕に教えてほしい。
僕はいい家づくりのためならば何でも学習したいと思っている。自分だけが正しいなんて、これっぽっちも思っ
ていない。住宅は車よりも総合的な物体だ。車でさえ日々新たなデザイン、エンジンの改良が行われ、最近で
は電気自動車まで登場した。住宅も然り。さらに総合性が高いだけに、より複雑な過程を経た先に、その可能
性は多様化していく。
答えは一つではない。百人の建主が居れば、その家も百通り。その家づくりのプロセスも同じなのだと思う。
この豊かな選択肢を読んだ読者が、自分にとって、本当に満足度の高い家づくりの道へと一歩を踏み出され
んことを願っている。
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by yawaraka-house | 2012-05-14 15:06