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『ハードな家』、住めますか?

 私がこれまでにコーディネートした住宅や縁あって拝見させていただいた
建築家住宅の中には、私だったらとても住みこなせないなあという印象を抱
く『ハードな家』もあった。その多くはモダン住宅だったが、私だけでなく、
建主もその印象を抱くこともあったようで、住宅が完成して間もなく、何ら
かの問題が発生するということもあった。

「暑くて住めない」「配偶者がこの家には住みたくないと言っている」「◯
◯◯が丸見えなので目隠ししたい」「庭で土砂崩れが発生した」「雨漏れが
発生した」・・・・・等々、決して建築家住宅に限ったことではないはずだ
が、フルオーダーで建設したはずの建築家住宅でさえも、このような問題が
起る可能性があるのだった。

 では、なぜこのような問題が起るのかと言えば、その原因の多くが、建主
と建築家のコミュニケーション不足に起因していたように思う。

「暑くて住めない」家の建主は、設計途中で建築家からその家の特色を聞か
されたがうまく理解できず、また、常識的に考えてこんなことはないだろう
と判断したその常識が、建主と建築家では随分と隔たりがあった、というこ
とである。同様に、「配偶者がこの家には住みたくないと言っている」建主
は、建築家とその配偶者が盛り上がって住宅プランが練られていったがもう
一人の配偶者の体調や精神状態がそれについていけず、取り返しようのない
不満が蓄積したのだった。「◯◯◯が丸見えなので目隠ししたい」建主は建
築家には内緒でその目隠しリフォームを工務店に依頼した。いずれもが「こ
んなはずじゃなかった」という建主の悔いがクローズアップされる結果を迎
えたのだが、建築家にしても「こんなはずではなかった」=「きちんと説明
していたはずなのに何故?」という悔いが残っているのである。

 このような結果から浮かび上がってくる課題は、建主と建築家がどうすれ
ば理想的なコミュニケーションを取ることができるかということだが、これ
にはお互いが円滑なコミュニケーション促進のためのスキルを身につける必
要があると思われた。俗に「口が上手い」というが、相手を口車に乗せて説
得する素晴らしくも一方通行のプレゼンテーション型コミュニケーションで
はなくて、本当にお互いの心底のニーズを確認し合えるようなコミュニケー
ションが必要なのだと思う。

 このコミュニケーションをきちんと図るためにも、住宅づくりの中には予
測不可能なことが起こり得るという情報開示も必要になってくる。

「庭で土砂崩れが発生した」建主の場合がまさにそのケースだが、その土地
で土砂崩れが発生することなど誰にも予測できなかったのである。それは一
般的な住宅地ではあったが、山を切り崩したような住宅密集地の残された一
区画であり、どうも先に建っていた他の住宅からの雨水が流れ込む沢が自然
に形成されたいた節がある。そこに家を建てたものだから、自然の雨処理が
できなくなり、庭に溜まった雨水が容量オーバーになった時に土砂崩れが起
ったのだった。建築家ならばそれくらいのこと知っておけ! という厳しい
お声がかかるかもしれないが、よほど崖地や傾斜地の建築に詳しい人でない
限り予測不可能だったと思う。この予測不可能が実は「雨漏れ」でも起こり
うる。経験豊富な腕のいいことで知られるある工務店の社長が言っていたが、
「自分でもどうしてだか解らない雨漏れを一回だけ経験したことがあるんだ
よなあ。施工はばっちりなんだけど、どうしても雨漏れする。しょうがない
からぜんぶやり直したけどさあ」腕前+男気+経験と三拍子揃った工務店で
さえそのようなリスクを抱えているのである。

 このようなリスク情報をお互いに確認(学習)した上で前に進めたい家づ
くりだが、合理化された多くのハウスメーカーはそのようなマイナス部分は
おくびにも出さず各社の住宅のメリットばかりを宣伝するものだ。だが、こ
のリスク情報を開示することで、本当のリスクに備えることができる。要は、
いざ何事かの問題が発生した時点でのアフターケアがきちんとできる人間関
係ができているか、ということである。

 「このデザイン好き!」と感じさせる建築家に設計依頼をしてそのまま上
手く住宅が完成すればそれに越したことはない。だが、いくらデザインが好
きでも相性が合わなければその建築家に設計を依頼するのはやめたほうがい
い。パーフェクトな住宅はない。何らかの問題が発生する可能性はどんな住
宅でも持っている。大切なのは、自分が付き合っている相手が、そのときに
気持ちよく相談できる建築家であり、工務店であるか、だ。建築雑誌ではわ
ざわざ建築家のマイナス面を掲載することはない。特異でユニークなデザイ
ンをした住宅ばかりを掲載する建築雑誌は、一般の家づくりを求める方の役
には立たない。あれは建築としての住宅を、その新規性や創造性を評価する
ものであって、住宅の居住性や生活機能性とは直接的に結びつかないケース
が多いと思う。ユニークなデザインでは快適な住宅にはならないと声を高め
ているのではない。私自身、そのようなユニークな形状をしたモダン住宅を
コーディネートしてきたが、建主さんたちは皆大満足している。問題は、相
性と満足度にある。人は「そのデザインが好きか」という問いには即答でき
るだろうが、「そのデザインがずっと好きか」という問いには確信的には答
えることはできないだろう。何故なら、人の嗜好は変化するし、人は学習す
ることでより豊かな暮らしを志向するようにもなるからだ。満足度は進化す
る。おしなべて全てに満足をできる住宅をつくるのがほとんど不可能なよう
に、その進化に適応する住宅をデザインするのは至難の技である。

 私は今、私がこれまでにその家づくりをコーディネートした『ハードな家』
のことを顧みるとき、建主のニーズや満足度の度合いに応じて、より選択肢
のある『やわらかな家づくり』の提案が必要であると感じている。そこでは
私たちからの情報発信とは別に建主がある一定レベルの家づくり知識を学習
することも重要である。例えば昨今テレビCMで当たり前のように連呼され
る「外張り断熱」の断熱材の多くが石油系の材料であり、将来的な解体時に
産業廃棄物になることを事前知識として知っていれば、エコ活動推進者はそ
の選択に躊躇するかもしれない。人は知ることで、豊かになり、より満足度
の高い選択ができるようになるものなのだ。

 「住み心地がよくてデザイン的にもユニークで面白い家」をつくることが
できれば、それこそ理想なのだが、それは結構難しいのである。

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by yawaraka-house | 2008-06-02 15:56